遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力
遺言のすすめ弁護士による相続対策
(1) 改正前民法
改正前民法1013条において「遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言執行を妨げる行為をすることができない。」とされていました。
例えば,相続人がA,Bの2人である事案において,被相続人がその遺産に属する甲土地をAに相続させる旨の遺言をし,Cを遺言執行者に指定していたにもかかわらず,Bが相続開始後にDに対して甲土地の2分の1の共有持分を譲渡した場合,Dは誰に対しても共有持分を主張することができません(Cが遺言執行者に選任されており,Bに甲土地の共有持分を譲渡する権限がないことをDが知らなくても共有持分を主張することはできません)。
(2) 改正後民法
【改正後民法1013条】
1項
遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができない。
2項
前項の規定に違反してした行為は,無効とする。ただし,これをもって善意の第三者に対抗することはできない。
3項
前二項の規定は,相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についての権利を行使することを妨げない。
ア 2項の追加
改正後は,同条2項が追加され,但し書きにおいて,「善意の第三者に対抗することはできない。」との文言が加えられております。
前述の事例において,Cが遺言執行者に選任されており,Bに甲土地の共有持分を譲渡する権限がないことをDが知らない場合には,共有持分の譲渡行為は有効なものとして取り扱われることになります。
ただし,Dが共有持分を取得したことを他の第三者(本件ではAが第三者にあたります。)に主張するためには,Dが共有持分を取得した旨の登記をAが相続により所有権を取得した旨の登記よりも先に備えることが必要となります。
イ 3項の追加
3項は,相続債権者又は相続人の債権者が相続財産に対して差押え等の権利行使をした場合に,遺言執行者の有無という相続債権者等が知り得ない事情により権利行使の有効性が左右されることがないようにするために追加されました。
相続人がA,Bの2人である事案において,被相続人がその遺産に属する甲土地をAに相続させる旨の遺言をし,Cを遺言執行者に指定していたにもかかわらず,Bの債権者であるEが甲土地の2分の1について差押えを行った場合には,差押えは有効となります(Cが遺言執行者に選任されており,Bに甲土地の共有持分がないことをEが知っていても差押えは有効となります)。