遺言執行者の権限等の明確化
遺言のすすめ弁護士による相続対策(1) 改正前の規律
改正前は,遺言執行者の権限や責務は法律上必ずしも明確に定められておらず,遺言の内容によって定まるものとされていました。そのため,基準としてあいまいであり,その権限や効果等を明確にする必要があることや,遺言者の意思と相続人の利益とが対立する場合にトラブルが生じることがあるなどの指摘がされていました。
(2) 改正後の規律
遺言執行者は,「遺言の内容を実現するため」に,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有することが明確にされています(民法1012条1項 その反面として,相続人が遺言の執行を妨げる行為をした場合には原則無効となる旨も規定されています。民法1013条2項。)。 また,改正前の「相続人の代理人とみなす」(改正前1015条)との文言は削除され,遺言執行者であることを示してした行為は,「相続人に対して直接にその効力を生じる」(民法1015条)とされ,遺言執行者としては,あくまでも遺言者の意思の実現という責務を負うものであり,相続人の利益のために行動する必要はないことが明確にされています。
また,遺言執行者の具体的な権限は遺言によって定まる,との点はこれまでと同様であるものの,新たに,類型毎に具体化した権限も明記されました。例えば,特定財産に関する遺言の執行の場合における,「対抗要件を備えるために必要な行為」(民法1014条2項)や,預貯金の払戻し等の申入れ(同条3項)の権限です。
その他,遺言執行者の責務として,任務を開始したときは,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知し(民法1007条2項),相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならないこと(民法1011条。改正前同様)が明記されています。