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遺産の評価|基準時と評価方法


遺産分割は、様々な財産で構成される遺産に対する各相続人の具体的相続分を算定し、実際に誰がどれだけ取得するかを決定する手続です。

従って、具体的相続分の算定の前提として、遺産を構成する各財産の金銭的評価を算定しなくてはなりません。

その際、いつの時点の評価額を基準とするかという「基準時」の問題と、金銭的評価をどのように算定するかという「評価方法」の問題があります。

以下、詳しく見ていきましょう。

 

1 基準時

遺産についての評価が必要となるタイミングは2つあります。

具体的相続分算出時と遺産分割時です。

 

(1)具体的相続分算出における基準時:相続開始時

相続人の一部に特別受益や特別寄与があった場合、それに相当する額を相続開始時の遺産に持ち戻す(特別受益 民法903条第1項)、あるいは相続開始時の遺産から控除する(寄与分 904条の2第1項)といった措置を施して「みなし相続財産」を算定します。

そこに各相続人の法定相続分や指定相続分を乗じ、さらに個々人の特別受益分・寄与分相当額を控除・加算したものが、具体的相続分です。

従って、具体的相続分の算定においては、相続開始時点の評価額によることになります。

なお、特別受益や寄与分の対象となった財産についても、相続開始時に存在する遺産に加減を施して「みなし相続財産」とするため、相続開始時を基準に評価すると考えられています。

 

(2)遺産分割における基準時:遺産分割時

遺産分割協議により実際に遺産をどのように分けるかを話し合うに当たっては、協議成立直近の評価額を採用します。

相続開始から遺産分割までタイムラグがある場合に、仮に相続開始時を基準としてしまう、相続以後の価格の変動が反映されないことになり、相続人間で不公平が生じてしまうためです。

 

(3)二時点評価

以上を踏まえると、遺産分割協議において特別受益や寄与分を主張するときは、相続開始時点と遺産分割時点の二時点評価が必要になります。

例をあげて説明します。

 

相続人:長男A、二男B

遺産の評価額:相続開始時2000万円、遺産分割時4000万円

Bに対する不動産の生前贈与(特別受益):相続開始時の評価額1000万円

 

・まず具体的相続分を算定するに当たっては、相続開始時点の評価額を基準とします。

みなし相続財産:相続開始時評価額2000万円 + 生前贈与された不動産の相続開始時評価額1000万円 = 3000万円

A:みなし相続財産3000万円 × 法定相続分2分の1= 1500万円

B:みなし相続財産3000万円 × 法定相続分2分の1 - 特別受益1000万円 = 500万円

 

・次に遺産分割により実際に取得する額を算定するに当たっては、遺産分割時点の評価額を前提とし、これに上記の具体的相続分額を按分比例させたものが実際に取得する金額となります。

A:遺産分割時評価額4000万円 × Aの具体的相続分1500万円 / ABの具体的相続分合計(1500+500万円)= 3000万円

B:遺産分割時評価額4000万円 × Bの具体的相続分500万円 / ABの具体的相続分合計(1500+500万円)= 1000万円

 

(4)例外

相続開始から遺産分割までにあまり時間が経過しておらず、評価額に大きな変動がない場合は、相続開始時又は遺産分割時のどちらか一方のみを基準とするのが通常です(一時点評価)。

 

また、上記のような評価基準時の考え方は、相続人間の公平を図るためのものです。

従って、相続人全員が合意しているのであれば、上記にとらわれず自由に設定することも可能です。

 

2 評価方法

評価方法について法律の定めはなく、相続人間の合意が整うのであればどのような方法で遺産を評価しても構いません。

しかし実際は、評価額の算定に要する費用・時間の節約や、合意が得られなかった場合には調停・審判において主張することになる等の事情から、以下の評価方法が一般的に用いられています。

 

(1)宅地(自用地)

①前提:相続の場面以外の評価方法

宅地の評価は、遺産分割の場面に限らず、売買契約における代金の算定や、相続税・固定資産税の計算等、様々な場面で様々な評価方法が用いられています。

主な評価方法の概要と閲覧サイトを紹介します。

 

・実勢価格

実際に不動産取引で売買される際の価格のことです。

https://www.land.mlit.go.jp/webland/

 

・公示地価

国土交通省が毎年3月に公表する評価額です。

実勢価格の約90%程度といわれています。

https://www.land.mlit.go.jp/landPrice/AriaServlet?MOD=2&TYP=0

 

・基準地価

都道府県知事が国土利用計画法の規定に基づき毎年9月に公表する評価額です。

公示価格とほぼ同じといわれています。

公示地価と同様、国土交通省の「標準値・基準値検索システム」で閲覧できます。

https://www.land.mlit.go.jp/landPrice/AriaServlet?MOD=2&TYP=0

 

・路線価

国税庁が毎年7月に公表する評価額であり、相続税・贈与税の計算等に用いられます。

実勢価格の約70~80%程度、公示価格の約80%程度といわれています。

https://www.rosenka.nta.go.jp/

 

・固定資産税評価額

市区町村が発表する土地価格であり、固定資産税・都市計画税の計算等に利用されます。

およそ実勢価格の60~70%程度、公示価格の約70%といわれています。

https://www.chikamap.jp/chikamap/Portal

 

②遺産分割における評価方法 | 実際の運用

上記のような複数の土地評価額のうち、遺産分割の場面では、「時価」すなわち実勢価格を採用することとされています。

しかし、実際に売却する予定がない場合、実勢価格を正確に定めることはできません。

そこで、上記の各評価額を基に、実勢価格に近い数値を算出するという方法が用いられます。

例えば、「固定資産税評価額は実勢価格の約70%程度」と言われていることから、固定資産税評価額に0.7を割り戻して計算すると、実勢価格に近い金額が算出されることになります。

そして、遺産分割協議においてその金額を前提とすることに全員が合意できれば、それで協議を進めることになります。

 

また、実勢価格の参考にするために、不動産業者の査定書を取得して検討材料の一つとすることもあります。

 

あるいは、調停や審判の手続の中で、土地評価額に関する中間合意が整わない場合には、不動産鑑定士による鑑定が行われることもあります。

 

(2)借地権

借地権は、上記(1)の自用地価格に、「借地権割合」を乗じて評価します。

この「借地権割合」借地権割合は、国税庁公表の「路線価図・評価倍率表」に記載されており、ホームページで閲覧することができます。

地価の高い地域ほど借地権割合が高くなる傾向があり、住宅地で6~7割、商業地で8~9割程度となっています。

例えば、被相続人が借地権を有しており、自用地評価額が1000万円、借地権割合が7割という事例を考えてみましょう。

この場合、遺産である借地権の評価額は、1000万円×0.7=700万円となります。

 

逆に、被相続人が貸主側の場合、つまり被相続人の所有地に他者への借地権が設定されているというケースを考えてみましょう。

この場合、土地(底地権)の評価額である自用地評価額から、借地権割合を控除した割合を乗じて評価することになります。

上記の事例では、1000万円 × (1-0.7)= 300万円となります。

 

さらに、土地の上に立つ建物(アパート等)を貸している場合は、上記借地権割合にさらに借家権割合(原則3割)及び賃貸割合(いわゆる入居率)を掛け合わせたものを自用地価格に乗じて算出するのが一般的です。

 

不動産に関しては、被相続人と相続人の間で賃貸借が行われているケースも多く、そのような場合には、他の遺産も含めて評価額をどうするか、総合的に話し合う必要があります。

 

(3)非上場株式

非上場株式については、会社法上の株式買取請求(116条、117条)における価格の算定方法や、税務上の評価基準である財産評価基本通達で採られている方式が参考となります。

 

①会社法上の株式買取請求における株価算定方法

・純資産方式

会社の総資産価額から負債と法人税などを控除した純資産価額を発行済株式数で除して評価

 

・配当還元方式

会社の配当金額を基準としてこれを発行済株式数で除して評価

 

・類似業種比準方式

会社と類似する業種の事業を営む会社群の株式に比準して評価

 

・収益還元方式

将来の予想年間税引後純利益を資本還元率で除したものを発行済株式数で除して評価

 

・混合方式

上記方式を組み合わせて評価

 

②税務上の評価基準

税務上、相続人がいわゆる同族株主になる場合、会社を大中小の区分に分けます。

  • 大会社には類似業種比準方式(選択により純資産方式も認める)が適用
  • 中会社は類似業種比準方式と純資産方式とを併用して計算
  • 小会社は純資産方式による

なお、同族株主にならない場合は配当還元方式によるとされています。

 

非上場株式の評価額について当事者間で合意が成立しない場合には、公認会計士等の専門家の鑑定を行うことになります。

 

(4)仮想通貨(暗号資産)

仮想通貨を含む暗号資産も、法的性質をどう捉えるかの問題はありますが、相続及び遺産分割の対象です。

評価方法については国税庁公表の「暗号資産に関する税務上の取扱いについて」が参考になります。

 

活発な市場がある仮想通貨 仮想通貨交換業者(取引所や販売所)が示す相続発生日の取引価格で評価
活発な市場がない仮想通貨 仮想通貨の内容や性質、取引実態などを勘案して個別に評価

 

「活発な市場がある」場合とは、仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われており、継続的に価格情報が提供されていることを指します。

相続した仮想通貨が国内の複数の取引所で取引されているときは「活発な市場がある」場合に該当すると考えられます。


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