遺産分割における分割方法(現物分割、代償分割、換価分割、共有分割)
遺産分割遺産分割において、分割の方法は大きく分けて①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割の4種類があります。
それぞれの分割方法の特徴を理解した上で、どの方法を選ぶべきかを考える必要があります。
本記事では、まず分割方法の決め方を確認した上で、4種類の分割方法の内容を説明します。
それらを踏まえ、分割方法をどのようにして決めるべきかを解説していきます。
1 分割方法の決め方
(1)遺言
例えば、「自宅を売却し、その売却代金を甲と乙が各2分の1ずつ取得するものとする」等、遺言によって遺産の分割方法を指定することができます。
なお、このような遺言が存在したとしても、相続人全員が同意すれば、遺言と異なる分割方法を選択することも可能です。
(2)遺産分割協議・遺産分割調停
遺言が存在しない場合や、あるいは遺言と異なる分割方法を選択することに相続人全員が合意した場合は、相続人間で遺産分割協議を行って分割方法を決めることになります。
あるいは、分割方法に関する協議がうまくいかない場合や、第三者が入った方が話合いを進めやすいという場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
このように、協議や調停で話し合って決める場合は、どの分割方法を選択するかについて制限はありません。
複数の分割方法を自由に組み合わせることもできますし、分割可能な遺産でも敢えて共有にするということなども可能です。
これに対し、次の遺産分割審判で分割方法が決定される場合は、分割方法の優先順位が定められています。
(3)遺産分割審判
遺産分割調停でも話合いがまとまらない場合には、自動的に審判という手続へ移行します。
なお、調停を申し立てないままいきなり審判を申し立てるということも可能ですが、調停でまとまる可能性がないことが明らかである等の事情がない限り、調停に回されてしまいます。
そのため、まずは調停を申し立てて、成立しなければ自動的に審判へ移行、というのが原則パターンです。
審判では、裁判所の判断で分割方法が決定されることになります。
その際、以下のような事情が考慮されます。
- 当該財産の種類や性質
- 各相続人の年齢、生活状況
- 当事者の意向や希望
- 相続開始前からの占有状況及び利用状況
- これまでの遺産分割協議の過程
- その他「一切の事情」(民法906条)
そして、裁判所が分割方法を決める上では、優先順位が設けられています。
すなわち、上記の事情を考慮した上で、次のような順序で分割方法が検討されることになります。
現物分割→代償分割→換価分割→共有分割
以下、それぞれの分割方法の内容を確認していきましょう。
2 分割方法の種類
審判の場合の優先順位に従って、それぞれの分割方法を見ていきます。
なお、繰り返しとなりますが、遺産分割協議や調停の場合は、分割方法やその組み合わせを自由に選択することが可能です。
以下の【ケース】を見ながら確認していきましょう。
【ケース】
相続人:甲、乙(相続分は各2分の1)
遺産:土地(1000万円)、自動車(200万円)、預金(800万円)
(1)現物分割
遺産の形状や性質を変更しないまま、誰がどの遺産を取得するかを決めるという分割方法です。
この方法が遺産分割の基本とされており、審判では最初に検討されることになります。
①具体例
- 例1 甲が土地を取得し、乙が株式と預金を取得する。
- 例2 土地を半分ずつに分筆した上で、甲が土地半分と預金500万円(合計1000万円)を取得する。乙は土地の残り半分と、自動車、預金300万円(合計1000万円)を取得する。
②特徴
それぞれの相続人が現物のまま取得する分割方法であり、相続人同士で遺産を共有するということがありません。
これにより将来の紛争を防止することができますので、遺産分割としては理想的な方法といえます。
③注意点
・土地
遺産に何も手を加えないまま分割することができれば良いのですが、例えば上記例2のように土地を分筆しなければうまく分割できないという場合、土地の資産価値が下がってしまうことがあります。
また、分筆によって、道路に接しない土地や、建物を建設するための法律要件(建ぺい率等)を満たさない土地が生じてしまうということもありえます。
そのため、分筆する場合にはその妥当性についても慎重に検討しなければなりません。
・借地権
現物分割により、相続人の1人が借地権を単独取得する場合は、地主の承諾を得る必要はありません(最判昭和29年10月7日)。
他方、借地権をいくつかに分け、複数の相続人がそれぞれ取得(現物分割)するという場合には、地主の利益を害してしまうおそれがあるため、地主の承諾が必要であると考えられています。
・株式
上場株式のうちいわゆる単位株制度の適用のある株式については、現物分割によって新たに単位未満株式を生じさせてしまわないように注意しなければなりません。
また、同族会社などの非上場株式の場合、分割取得した者が経営権に関与することになります。
そのため、分割方法とは別に、会社の経営にとって望ましい株主構成について十分に話し合う必要があります。
・動産や現金
問題が生じうるのは、動産を現に占有している者と分割取得する者が異なるというケースです。
このようなケースで現物分割を選択する場合は、その引渡しの方法についても取り決めておくべきでしょう。
自動車であれば所有権の移転登録手続について話し合い、例えば高額な美術品などについては引渡しの日時や方法等を明らかにしておく必要があります。
他方、現金の場合は、分割対象の現金とそれ以外の現金を区別する実益がないため、現占有者が分割取得者に対して取得額を支払うという形で処理します。
(2)代償分割
法定相続分を超える遺産を取得する相続人が、他の相続人に対して代償金を支払うという分割方法です。
①具体例
上記【ケース】の場合、法定相続分に従うと甲と乙の取得額はそれぞれ1000万円ずつです。
そこで、例えば甲が土地(1000万円)と自動車(200万円)を取得するという場合、法定相続分と取得額との差額である200万円を代償金として乙に支払うこととし、両者の公平を図ります。
②特徴
遺産分割協議や調停において、相続人全員の合意により代償分割を行う例は数多く存在します。
審判の場合は、現物分割に代わる方法として2番目に検討することとされています。
遺産の性質上現物分割が不可能な場合や、現物分割により遺産の価額を著しく減少させるおそれがあるとき、また特定の遺産に対する相続人の利用状態等を保護する必要があるとき(相続人の一部が農地を経営している等)などに採用されることがあります。
③注意点
代償金を支払う相続人に、その資力(支払能力)があることが前提となります。
従って、審判ではそのことが代償分割を採用するための要件とされています(家事事件手続法195条「特別の事情」)。
また、代償債権者の同意のもと、債務者の固有財産(不動産や株式など)の所有権を移転するということも可能ですが、基本的には金銭で代償金を支払うのが原則です。
また、代償金の支払方法は一括払いが原則ですが、支払猶予期間や分割払いを定めたり利息を付したりすることも可能です。
遺産分割協議でこれらを定める場合は、詳細な合意内容を必ず協議書に記載しておきましょう。
(3)換価分割
遺産を売却して金銭に代え、その売却代金を分配するという方法です。
①具体例
上記【ケース】では、例えば次のような分け方が考えられます。
- 例1 土地(1000万円)と自動車(200万円)を売却し、預金800万円との合計2000万円を、甲乙が等分して取得する。
- 例2 土地(1000万円)だけを売却し、その代金のうち800万円と自動車(200万円)を甲が取得し、土地代金残り200万円と預金800万円を乙が取得する。
②特徴
代償分割を行うだけの資力(支払能力)がない場合や、資力はあるものの対象財産の取得を望んでいないという場合などに検討される方法です。
また、相続人全員で納税資金を捻出したいという場合や、遺産の評価額に関する意見がまとまらず代償金額が決まらないといった場合にも検討されることがあります。
遺産分割協議や調停の場合、売却の方法や条件等についても相続人全員で話し合って決める必要があります。
他方、審判で換価分割が選択される場合は、裁判所が競売を行うことになります。
③注意点
売却により第三者に所有権が移るため、当該財産の利用(居住や店舗使用等)を希望する相続人がいる場合は、その利益や意向に沿えないことになります。
また、審判で競売を行う場合、換価金額が一般的相場よりも低くなってしまうことがほとんどである上、時間もかかります。
そのため、まずは任意売却の可能性を探るべきです。
なお、不動産の任意売却を行う場合、不動産業者への仲介手数料等を支払うことになります。
加えて、売却代金から取得費・仲介手数料等の経費を差し引いた額に対して、譲渡所得税が課されます。
すなわち、相続税以外にも諸々の負担が生じるということを十分確認して下さい。
(4)共有分割
相続人が遺産を共有で取得するという分割方法です。
①具体例
上記【ケース】では、まず甲乙が土地の持分を1/2ずつ共有で取得し、その上で甲が自動車と預金300万円を、乙が預金500万円を取得するといった方法が考えられます。
②注意点
「共有のままにしておく」というのは、ある種最も穏便であり簡単な方法と思われるかもしれません。
しかし、実際のところ共有者間で将来何が起こるかわからず、単なる紛争の先送りに過ぎないという側面が否定できません。
だからこそ、遺産分割審判では最後に検討するべき分割方法とされているのです。
遺産分割協議や調停で検討する場合も、現物分割や代償分割はもとより、換価分割さえも困難な場合や(買い手が見つかる見込みが全くない等)、あるいは相続人全員が望んでおりかつ共有としても全く心配がない等の場合に限って採用するべきでしょう。