20年以上婚姻している妻に自宅を贈与したい。チェックポイントを教えてください。
生前対策ポイント1 ① 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、 ②居住の用に供する建物またはその敷地を遺贈または贈与したとき という要件を満たしたときは、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されます。(民法903条第4項)
従前は持ち戻し免除の意思表示をしなくてはいけなかったのですが,この意思表示をしなくても,当然推定される規定が,2019年7月1日施行された改正民法で定められました。
(効果) このような贈与がされれば,居住の用に供する建物やその敷地は,他の夫婦の一方に引き継がれます。他の相続人が遺留分の請求をすることができませんので,贈与意思が完全に実現されます。死後,残された配偶者の住処が,確保されることになります。
仮に,残った財産の現金や預金,有価証券や,他の不動産があれば,相続分に従って分割できます。多くの夫婦が望んでいることが,贈与契約を締結しておけば実現できます。
贈与契約書
贈与者(以下甲という)は,受贈者(以下乙という)と以下条項により贈与契約を締結する。
第1条 甲と乙は,年月日に婚姻し,同日より現在まで同居していることを確認する。
第2条 甲は乙の所有する下記の居住の用に供する建物またはその敷地(以下本件不動産という)を乙に贈与し,乙はこれを受諾した。
記
(1棟の建物の表示)
所在
建物の番号
構造
床面積 1階
2階
3階
4階
(敷地権の目的たる土地の表示)
所在及び地番
地目 宅地
地積 平方メートル
(専有部分の建物の表示)
家屋番号
建物番号
種類構造
床面積 平方メートル
(敷地権の表示)
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 分の
持ち分
以上
第3条 甲は,本件贈与について,乙の持ち戻しを免除する。
第4条 甲は,第2条に基づき贈与した本件不動産を,本日乙に引き渡し,かつ,前記不動産の所有権移転登記手続きを行う。
尚,所有権移転登記費用は,乙の負担とする。
第5条 前記不動産の公租公課は,引き渡し日を基準とし,引き渡し前は甲が負担し,引き渡し後は乙が負担する。
令和6年 月 日
甲
乙
乙は,甲が前記不動産に同居すること認める。
ポイント2 居住用配偶者控除が使えます。
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で,居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合,基礎控除110万円のほかに最高2000万円までの控除(配偶者控除)できるという特例が受けられます。
特に,マンションは,敷地の割合が少なく,建物の固定資産税評価額も低いので,2000万円の配偶者控除で贈与税を支払わなくてもよいケースも多いです。
ポイント3 戸建ての場合,贈与の配偶者控除だけで収まらない場合は,相続時精算課税の選択も可能です。
ポイント4 愛する配偶者のためにぜひ,活用してください。
ポイント5 遺言による居住用不動産の遺贈
居住用配偶者控除が使えない場合は,遺言による遺贈でもよいかと思います。
遺言例
本旨
1 (不動産の相続)
遺言者は,その所有する下記の不動産を含む一切の不動産を,妻A(昭和生)に相続させる。
記
(1) 土地
所 在
地 番
地 目 宅 地
地 積
遺言者の持分
(2)建物
所 在
家屋番号
種類構造
床面積 1階 ㎡
2階 ㎡
2 (預貯金等の相続)
遺言者は,遺言者が死亡時に所有する下記の預金、株式投資信託及び金地金を含む一切の預貯金、有価証券及び債券並びに動産・現金を遺言執行者において、適宜、解約、払い戻しまたは売却ないしは名義変更し、その払い戻し解約金及び遺言者所有の現金から、遺言者の未払い公租公課、医療費、介護費用、葬儀費用、遺言執行費用及び報酬その他一切の債務を弁済した残余を妻A(昭生)に相続させる。
記
銀行 支店 普通預金
ゆうちょ銀行 通常貯金
3 遺言者は、その余のすべての財産を妻日比元子に相続させる。
4 (予備的相続)
遺言者は、妻Aが遺言者より先に死亡したときは,妻Aに相続させる財産の全てを,長男B(昭和生)に相続させる。
5 (祭祀主宰者の指定)
遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として妻Aを指定する。
6 (遺言執行者の指定)
遺言者は,本遺言の遺言執行者として下記の者を指定する。
住 所
事務所
生年月日 昭和
7 遺言者は、遺言執行者に対し、本遺言を執行するため、法定相続人の印鑑証明付同意書を要することなく、単独で、遺言者名義の預貯金等の名義変更、解約、払い戻し、売却等の手続きをする権限、その他本遺言の執行のために必要な一切の行為をする権限を付与する。
遺言者は、遺言執行者に対し、本遺言の執行に関する報酬として、法律事務所の報酬規定に基づいて算出された金額を支払う。