遺留分を請求された!「やるべきこと」と「やってはいけないこと」
弁護士による相続対策遺留分侵害額請求
相続手続が一段落したところへ「遺留分侵害額を請求します」との知らせが届いたら、慌てず次のことを確認します。
- 相手が遺留分権利者か
- 請求された日付
- 自分の相続内容
- 請求金額の妥当性
一方で、やってはいけないこともあります。
- 無視する
- 言われるままに支払う
以下、わかりやすく解説していきます。
1 遺留分を請求されたときに「やるべきこと」
(1)相手が遺留分権利者かどうかを確認する
遺留分とは、簡単に言うと、法律が特定の相続人に認めた最低限の遺産の取得分です。
相続が開始された時に「せめてこのくらいは分配せよ」と法律が最低ラインを決めており、仮に被相続人(故人)本人が遺言等で一部の相続人に偏った財産の分け方にしたとしても、他の相続人がこの遺留分侵害額請求権を行使することで事後的に相続人間の公平を図るという機能があります。
このように事後的に相続を調整するという形になりますので、行使できる権利者は以下の相続人に限られています。
- 配偶者
- 子供(または孫)
- 親(または祖父母)
したがって、例えば請求してきた相手が被相続人の兄弟であった場合には応じる必要はないことになります。
(2)請求された日付を確認する
遺留分侵害額請求権は時効によって消滅します(民法1048条前段)。
時効期間:権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から「1年」
相続の開始と贈与又は遺贈のあったことを知るだけでなく、遺留分を侵害することを知ってから時効期間である1年間を経過することが必要となります。
請求された時点でこの期間を経過していれば、「時効消滅したので支払わない」旨の通知(時効の援用、内容証明郵便が好ましいです)をすることで遺留分侵害額の負担を免れることができます。
また、時効消滅とは別に除斥期間によっても遺留分侵害額請求権は消滅します(民法1048条後段)。
除斥期間:相続開始から「10年」
除斥期間は、時効とは異なり、「遺留分を侵害する贈与または遺贈があったこと」を知ったことは要件とならず、相続の開始から10年間を経過することにより、自動的に消滅し、援用は不要です。
(3)遺留分侵害額を確認する
遺留分侵害額があるかは以下の方法で計算します。
遺留分侵害額
=①遺留分額-②遺留分権利者が受けた贈与・遺贈・特別受益の額
-③遺産分割において遺留分権利者の具体的相続分に相当する額
+④遺留分権利者が負担する債務((民法1046条2項3号))
相続人 | 総体的遺留分 | 法定相続分 | ||
配偶者 | 子 | 直系尊属 | ||
配偶者のみ | 1/2 | 1 | ||
子のみ(1人) | 1/2 | 1 | ||
子のみ(2人) | 1/2 | 1/2ずつ | ||
配偶者と子(1人) | 1/2 | 1/2 | 1/2 | |
配偶者と子(2人) | 1/2 | 1/2 | 1/4ずつ | |
直系尊属のみ | 1/3 | 1 | ||
配偶者と直系尊属(1人) | 1/2 | 2/3 | 1/3 | |
配偶者と直系尊属(2人) | 1/2 | 2/3 | 1/6ずつ |
① 遺留分額
遺留分算定の基礎財産×総体的遺留分(民法1042条1項)×法定相続分
※遺留分の算定の基礎財産は、被相続人の積極財産に生前贈与の額(相続人10年以内、第三者1年以内(民法1044条1項、3項))を加えたものから、被相続人の債務の額を差し引いたものとなります(民法1043条1項)。
② 遺留分権利者が受けた贈与・遺贈・特別受益の額(民法1046条2項1号)
相手が生前贈与を受けていたなどの特別受益がある場合にはその金額が遺留分額から差し引かれるため、遺留分は侵害されていない可能性があります。
請求者が特別受益を得ていたかどうか、被相続人の預貯金の履歴や不動産登記簿などの調査を行います。
遺留分額算定時と異なり、期間制限はありません。
③ 遺産分割において遺留分権利者の具体的相続分に相当する額(民法1046条2項2号)
全ての財産が遺言に記載されておらず、遺言に記載されていない財産について遺産分割が必要な場合には、考慮する必要があります。
(4)自分の相続内容を確認する
相続人以外の受遺者・受贈者は、遺贈又は贈与の目的の価額を限度として遺留分侵害額を負担しなくてはなりません(民法1047条1項柱書)。
しかし、相続人の責任は、遺贈又は贈与の価額から自らの遺留分の額(計算方法(3)の①参照)を控除した額が限度となります。
これは、自分が相続した財産の額が自己の遺留分額の範囲内であれば、請求してきた相手の遺留分を侵害しているのは他の相続人であるためです。
2 遺留分を請求されたときに「やってはいけないこと」
(1)無視する
遺留分侵害額請求をされたときに最もやってはいけないことが「無視する」です。
とくに内容証明郵便を用いて請求してきた権利者は次の段階を強く意識しているはずであり、無視や放置を続ければ訴訟、判決、強制執行まで行うことが予想されます。
遺留分を侵害しているのであれば侵害額を支払うのが義務であることを自覚し、その上で値段交渉・支払方法の交渉を持ち掛けるのが得策といえるでしょう。
(2)言われるままに支払う
上記計算式からわかるように、遺留分侵害額の計算は非常に複雑かつ難解です。
そこにある各概念を理解するには法律や判例の知識が不可欠であるうえに、基礎財産額に株式や不動産などが含まれている場合にはその評価額に争いが生じることがあります。
権利者が示した金額とあなたが計算した金額が異なることも多くあります。
したがって権利者が提示した金額を鵜呑みにするのではなく、相手にその根拠を求めると同時にご自身でも試算しなければなりません。
そしてその差額を承知の上で支払うのか、あるいは譲歩を求めるのかを検討することが必要となります。
3 弁護士に相談するメリット
遺留分が問題となるのは相続の最終局面であるのが通常です。
これまで遺言について不満を持ちながらも疑義を唱えなかった相続人が最後の手段として持ち出すのが遺留分なのです。
したがって相手にも相応の覚悟があるとみて対応を急ぐ必要があります。
その場合の相談先として弁護士を選ぶメリットをいくつか挙げます。
(1)適切な遺留分侵害額の算出
侵害額の計算では、相続財産の評価や特別受益額の算定をめぐって争いが頻発します。
弁護士であれば、単に計算が正確であるだけでなく、訴訟に発展した場合には証拠による立証ができるかどうかを判断することが可能です。
(2)支払い期限の許与
訴訟において遺留分侵害額請求を認める判決が確定した場合、期限までに支払わなければ強制執行されますが、「取得した現金は費消済み」「取得したのは不動産」というように金銭の準備ができない場合も予想されます。
そのような場合には、訴訟手続き中に裁判所に対して支払期限の許与を求め、判決後すぐの強制執行及び遅延損害金発生の阻止を目指すことが必要です。
(3)代物弁済交渉
遺留分侵害請求をされた場合には、原則、金銭での支払いが求められます。
金銭の準備はできないが取得した不動産等の現物が残っているという場合に代物弁済を行うことも、当事者が合意すれば可能ですが、遺留分で争っている当事者間なので、難しいことが多いかと思います。
遺留分を請求されてお困りの方は相続問題に詳しい当事務所までご相談ください。